尻腐れ病の原因がカルシウムの不足とすれば、実の中のカルシウムの状態が分る方法がないものでしょうか。
もしそれが分るなら対策も早く打てそうですが、現実的には、なかなか難しそうです。
ただ、トマトの実の表面にはカルシウムの状態が現れるということは知られています。
なかなか写真には写りづらいものですが、下の画像を拡大してご覧ください。
大きくなってきた実の肩の部分に白いツブツブの点が見えます。
もっとはっきり写っている写真がこちらですが、1段目の果実でははっきりと確認できることが多いです。
この白いツブツブの点はシュウ酸カルシウムが表面に現れたものです。
このツブツブの点が適度に表れているとカルシウムは届いているということになりますが、上段に行くほど見えにくくなってきます。
しかし、実際にはすべての実を細かく観察を続けることは大変なので、むしろ必ず不足してくるということで対策を考えたおいたほうがいいのでしょう。
尻腐れの最初の予防策は植え付け前の用土にカルシウム分が含まれているかどうかです。
さらに、他の要素と合わせてバランスのいい状態で含まれていることが重要です。
そしてプランター栽培の場合は、肥料の効き方は水やりとも関係し、水を多くあげ過ぎると早く効く代わりに、早く流れ出てしまいます。
さらに用土の水はけや、日照や温度などの条件が違えば、たとえ最初は同じ量の肥料をあげても、根、葉、実の育ち方が違ってくるわけです。
もし1段目から尻腐れが発生した場合は、すでに植え付け前の肥料成分に問題があり、徐々に改善するしかありません。
畑では一般的にトマトを植えつける前に2週間前から苦土石灰を施します。
苦土石灰は土の酸性度を調整するだけでなく、土にマグネシウムとカルシウム分を供給します。
プランターや鉢などで栽培する場合は、市販の培養土を使うことがおすすめですが、肥料入りと書いてあっても意外と成分が不明なことがほとんどです。
カルシウム分が配合されてる場合や、トマト専用培養土であれば肥料成分は考慮されていると考えていいかと思います。
もし肥料分が何も入っていないと仮定した場合は、大玉トマト1株当たり苦土石灰30g、化成肥料30~50g、溶リン20gを目安としています。(1株当たり用土25~30リットルと仮定した場合)
カルシウム分は適量に含まれていればいいのですが、含まれていないとすれば、畑と同じように事前に土に与えておくことで3段目くらいまでの尻腐れをほとんどなくすことができるはずです。
いずれにしても、尻腐れの防止には事前にカルシウム分について確認しておくことは必要です。
そして、その後の対策として土にさまざまなカルシウム肥料を追加していけばいいというのが多くのアドバイスです。
しかし、実際にやったことのある人は感じますが、意外と効果が上がらないことが多いのです。
なぜでしょうか。
少し古いですが、野菜の教科書(蔬菜園芸学(C)1990)を引っ張り出してみます。
カルシウムについて要約すると次のように書かれています。
カルシウムの欠乏は土壌のカルシウム不足によって発生することは少なく、養分同士がかち合ったり(拮抗作用)、土壌の乾燥、養分が濃すぎるときなどによって、カルシウムが吸収されない、あるいは吸収されたカルシウムが実に届くのを邪魔されて起きる。
カルシウムは蒸散(水蒸気の空中への放出)の盛んな場所(成熟した葉など)に多く移る傾向が強く、蒸散の少ない果実、成長点、これから出る葉などには移りにくい。
実へカルシウムが移るのは、おもに成熟した葉での蒸散が減少する夜間に行われるため、この夜間に実への水の移動を抑制するような状況になると、尻腐り果が多発する。
トマトのカルシウム欠乏の予防策として塩化カルシウムの0.5%水溶液が用いられるが、カルシウムは葉から果実に移行しにくいので、果実に直接かかるように散布する必要がある。
少し古い本なので研究で変わってきていることもあるかもしれませんが、重要なカルシウムの流れが書かれています。
私が、ここで一番気になったのは「夜間に実への水の移動を抑制するような状況になると、尻腐り果が多発する」という部分です。
対策的にはこの状況を防ぐことも、一つの大きなポイントで、個人的には具体的な方策を考えてみたいと思っています。
やはり、いったん葉に吸収され取り込まれたカルシウムは、他に流れにくいとされています。
つまり、土からだろうが、葉面散布だろうが、葉にいったん蓄えられたカルシウムは実に回らないということです。
このポイントを踏まえて追肥対策を考えないと、なかなか効果が出にくいということなのでしょう。
速攻性が期待できる肥料として、スプレー散布ができるダーウィンやカルクロンなどのカルシウム肥料も出ています。
トマトは葉からも養分の吸収ができるとされていますが、これも、葉が吸収したカルシウムは実に転流しないとすれば、葉面散布ではなく開花期から幼果期に花房(果房)に散布するほうが効果的だと判断できるわけです。
こうやってカルシウムの流れを考えていくと、実と競合する葉を摘みとってしまって、 葉に行くカルシウムを減らし実に回せないか、という発想が出てきます。
徳島大学や大阪府立大学(摘葉がトマトの尻腐れ果発生に及ぼす影響)などで研究発表され、摘葉することで尻腐れの発生は減らせる、との結果がでています。
方法としては、果房と競合する葉の半分を摘み取って、その分のカルシウムを実にを回し、尻腐れを減すというものです。
ただし、摘葉方法によっては、実の大きさにも影響すると考えられるので、先端から摘む、片側を摘む、とびとびに摘むなど、いろいろな摘み方が考えられるようです。
私の場合、畑では前もって石灰を適量施せばほぼ発生していないので、プランターで栽培するときだけ、とりあえず奥の葉の先端から半分摘葉していますが、一番効果がある方法をいろいろ試しているところです。
大玉トマトの成長を観察してみると、一般的に最初の花房が着いた後、葉を3枚付けた後、またつぎの花房を着けるというリズムを刻みます。
花の次に出てくる最初の葉は、花から180°回って、つまり花と反対側の奥に着きます。
そして右の葉と、左の葉と合計3枚付けた後、つぎの花を着けるわけですが、図のように上から見たときには太陽が届きやすいように、うまく90°ずつ離れて十字になります。
なかなかトマトも考えているものです。
そして、この花と3つの葉のセットには、とても興味あることがあるのです。
これもだいぶ前に出た本で、「まるごと楽しむトマト百科」から覚えたことですが、 イラストで説明すると、花房(果房)に養分を送るのは左右の葉だけで、奥の葉は果房にはつながっていない、ということなのです。
そこで左右の葉を摘むと実の成長に影響するため、いろいろな研究の結果、奥の葉を50%摘葉するのが、尻腐れを減らし収量もあげるのに効果が高いと推測しているのです。
そもそも、家庭菜園では肥料過剰になりやすいので、この程度、葉を摘んでも、まず影響はありません。
これならプランター栽培でも採用できそうですが、いかがでしょうか。
摘葉による尻腐れ対策については、ブログ 解決!トマトの尻腐れ でも効果ありと推奨されています。
私も摘葉のやり方を変えながら続けています。
ここでは大玉トマトについて書いていますのでミニトマトは前提としていませんが、ミニトマトでたくさん発生するようなら、同じように用土と元肥について再検討したほうがよさそうです。
まとめると、あまり発生しない第1~3段果房までの対策は、植える前にはカルシウムを含めバランスのいい施肥とその後の適切な水やりを心がけ、第4段目以降の対策として、摘葉やカルシウム散布肥料の活用で対策をとるということでかなり減らせるのでないかと思います。